その2:抗生物質についてのお話
即効性のある万能のお薬と思い込んではいませんか?
■ 抗生物質とは何でしょうか?!
簡単に言えば、感染症の原因になる細菌を殺す薬です。
特によく使われているペニシリン系・セフェム系抗生物質は
細菌の細胞の持っている細胞壁の合成を邪魔することによって細菌の増殖を止め、
殺菌する作用をもつもので、細胞壁合成阻害薬と呼ばれています。
まずは、代表的な抗生物質をご紹介しましょう。
◇ ペニシリン系抗生物質
最初に開発された抗生物質はペニシリンです。1928年(昭和3年)、英国のフレミングにより発見され、
その後の感染症治療の飛躍的発展のきっかけとなりました。日本では1945年に製造が開始されました。
ペニシリンは多くの感染症に効果を発揮し、肺炎球菌や溶連菌などのグラム陽性菌と呼ばれる細菌に非常によく効きました。
当時は死亡率の高かった化膿性髄膜炎、猩紅熱、丹毒などの病気もペニシリンのおかげで治る率が高くなり、20世紀の奇跡とも呼ばれました。
その後、ブドウ球菌やグラム陰性菌に分類される菌にも有効な広域ペニシリンが開発されて、さらに治療できる病気(細菌)の範囲が広がりました。
◇ セフェム系抗生物質
細菌を殺す仕組みは基本的にペニシリン系抗生物質と同じで、科学構造の少し異なる構成物質です。
現在最も多く使用されているのはこの系統の薬です。
◇ 蛋白合成を阻害するタイプの抗生物質
アミノ配糖体系、マクロライド系、テトラサイクリン系などの抗生物質がここに分類されます。
「異型肺炎」と呼ばれる軽い肺炎の原因になるマイコプラズマ、クラジミアなどの病原体には
ペニシリン、セフェムが効きませんのでマクロライド系抗生物質が用いられます。
■ 抗生物質の副作用について
まず抗生物質の副作用として頻度の高いのは下痢です。
抗生物質を飲むと腸内のいわゆる善玉菌も死んでしまいますので、
(特に長く服用した場合には)下痢をしてしまうことがよくあります。
またアレルギー反応(発疹などの症状)を起こす確率もほかの種類の薬よりは少し高いと言えます。
■ 耐性菌の問題
抗生物質の登場により多くの細菌感染症の患者さんたちが救われましたが、
抗生物質を軽い風邪のときにも安易に使い過ぎたために
抗生物質の効かない菌(耐性菌)が増えてきたことが大きな問題になってきました。
小児科や耳鼻科の外来では、飲み薬の抗生物質が効かず治りにくい中耳炎・副鼻腔炎が増加してきたことが特に大きな悩みになっています。
強力に抗生物質の注射薬を使って治療するためには入院が必要になることが多いため、患者さんには時間的・経済的負担が大きくなります。
今こそ耐性菌を増やさないための抗生物質の適正使用
(不必要な抗生物質の使用を減らす)ことが求められていると言えます。
■ ウイルスに抗生物質は効きません!
一般の風邪(咳、鼻水、喉の痛みなどの症状の出る上気道炎)はウイルスで起こります。
ウイルスには抗生物質は効きません。
ウイルスを退治する薬はまだほとんどない(注:ヘルペス属のウイルスやインフルエンザウイルスなどごく一部のものには有効な薬が開発されました)ため、
ウイルス感染症の患者さんには安静、水分の補給などの一般的なケアと咳などの症状を和らげる対症療法が本来は必要な治療のすべてです。
風邪をこじらせて細菌性肺炎・菌血症などを併発してしまったときには、抗生物質が必要であり有効です。
※ここでいう“こじらせた”は、単に長引いていることではなく、
ウイルスにより弱った体が細菌にやられてしまったことを指し、専門的には細菌二次感染と言います。
補足:「ウイルス」は、電子顕微鏡を使わなければ見えない小さな病原体です。
一般の風邪はウイルスにより起こります。
「細菌」は、理科室にあるような顕微鏡でも見ることができる病原体です。
※つまり、ウイルスより遥かに大きい
「とびひ」や「溶連菌感染症」は細菌の感染症です。
・・・つづく